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未知の輪郭

英語

切り裂きジャック 「DNAで解決」報道の中身と、130年解けない時刻の矛盾。

文=cicada 1123

1888年の秋、世界最大の都市ロンドンのイースト・エンドで、貧しい女性が次々と殺された。犯人は捕まらないまま殺人が突然終わり、犯罪史上最大級の謎になった。ドキュメンタリーはそう切り出し、当時の記録をたどっていく。

数分の差ですれ違い続けた現場

印象に残るのは、犯人がどれほど際どいところを通り抜けていたかだ。8月31日のメアリー・アン・ニコルズの現場では、発見の数分前に3人の警官が周辺を巡回していた。9月30日のキャサリン・エドウズでは、13分周期で回るワトキンス巡査が午前1時30分に無人を確認し、1時44分に戻ったときには遺体があった。マイター・スクエア唯一の民家には警官一家が現場を見下ろす窓の隣で眠り、声の届く倉庫では元警官の夜警が働いていた。それでも誰も何も見ていない。

アニー・チャップマンの事件では、時刻そのものが食い違う。フィリップス医師は死後2時間以上として午前4時30分ごろと見たが、エリザベス・ロングはその1時間後に本人を目撃したと述べ、ジョン・リチャードソンは4時45分に現場の数センチ脇へ座っていて遺体は無かったと断言した。医師は後に「朝の冷え込みと大量の失血」で自分の判断が狂った可能性を認めている。

手紙と腎臓、どこまでが本物か

「Dear Boss」の手紙と葉書は、2件の犯行を「double event」と呼び、女の耳を切り取って警察へ送ると予告していた。小包は届かなかったが、エドウズの右耳たぶは斜めに切られていた。10月にはホワイトチャペル自警委員会のジョージ・ラスクのもとへ腎臓の半分が届く。医師たちは人間のものだという点では一致したが、エドウズのものかは判定できなかった。当時から警察幹部は手紙を記者の作り話とみており、アンダーソン警視副総監は「進取的なロンドンの記者の創作」と切り捨てている。

容疑者と「DNAで解決」の中身

後半は容疑者の検討にあてられる。この動画が丁寧なのは、有力に見える説ほど根拠を遡る点だ。 女性嫌悪の医師フランシス・タンブルティが「完璧すぎる容疑者」に見えるのは、子宮の標本を陳列していたという逸話があるからだが、その出所は偽証で有罪になった虚言者への取材記事1本に行き着く。

近年最も注目されたアーロン・コズミンスキーのDNA一致についても、そもそも現場からショールが見つかった証拠が無く、使われたミトコンドリアDNAは母系で共有されるため個人を指し示せない。「ミトコンドリアDNAでできるのは容疑者を除外することだけだ」という遺伝学者の言葉が引かれる。警察幹部の見解も割れており、リード警部はアンダーソンに「それを証明してみせろ」と迫っていた。

視聴者の反応

  • Insane to think that a top 10 memes channel could become a powerhouse in the documentary space. Amazing Lemmino

    高評価 62,273

  • Man, those visuals are better than most high budget film documentaries

    高評価 34,808

  • Things I learned from this video: 1. British people in 1888 didn't sleep 2. Everyone in Britain in 1888 knew each other 3. The mitochondria is the powerhouse of the cell

    高評価 18,438

  • "hey look, there's a dead woman lying in the pavement" "damn she's dead" "wait I'm gonna be late for work" "oof same let's get going"

    高評価 13,382

  • I never think about how people used to have to just go find the police if they needed them back in the day.

    高評価 13,057

この説をたどる

この動画の運びで目を引くのは、証拠が出てくるたびに一段ずつ弱くなっていくところだ。検死医の見立ては互いに食い違い、目撃証言は同じ人物を描いているのかも分からず、手紙は記者の仕業かもしれず、DNAは母系の数千人を同時に指す。強い手がかりが一つずつ外れていって、最後に残るのは「イースト・エンドの男は砂粒のようなものだ」という当時の新聞の一文になる。犯人が並外れて賢かったから逃げ切ったのではなく、記録の乏しい数百万人の都市で、誰でもない誰かとして紛れ込めたから逃げ切った。語り手が最後に容疑者を一人選ばなかったのは、選べなかったからというより、選ぶこと自体がこの事件の性質に合わないと見ているからだろう。

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動画の見どころ

  1. マーサ・タブラムは39回刺されており死亡は午前2時30分ごろと見積もられたが、混み合った建物の住人は誰も物音を聞いておらず、「この辺りでは人殺しの叫びはほぼ毎晩だ」という証言が添えられる。

  2. ニコルズの傷はまだ出血し体は温かく、医師は死後30分以内と見た。3人の警官が数分前に周辺を巡回していたが、誰も異常に気付いていなかった。

  3. チャップマンの死亡時刻をめぐり、検死医の見立てと2人の目撃証言が1時間ずれる。医師は後に朝の冷え込みと大量の失血で判断が狂った可能性を認めた。

  4. 13分周期で巡回するワトキンス巡査が午前1時30分に無人を確認したマイター・スクエアに、1時44分へ戻ると喉を切られ腹を裂かれた遺体があった。

  5. 襲撃者が叫んだ「リプスキ!」を共犯者の名と読む解釈に対し、アバーライン警部は1887年の事件以降その姓が反ユダヤ的な蔑称になっていた点から、目撃者への侮蔑だったと推論する。

  6. エドウズのエプロンを裂いた血染めの布片が見つかり、その上の壁に「The Juwes are the men that will not be blamed for nothing」と書かれていた。意味も筆者も今なお不明である。

  7. 「Dear Boss」の手紙が予告した耳の切除は届かなかったがエドウズの右耳たぶは斜めに切られており、10月にはラスク宛てに人間の腎臓の半分が届いた。

  8. 第一発見者チャールズ・クロスが実はチャールズ・レックミアで継父の姓を名乗っていたこと、通勤路が犯行と重なること、しかし日曜の2件とはかみ合わないことが順に示される。

  9. コズミンスキーのDNA一致報道について、現場でショールが見つかった証拠が無いこと、ミトコンドリアDNAは母系で共有され個人を特定できないことが指摘される。

  10. 「完璧すぎる容疑者」に見えるタンブルティの女性嫌悪と子宮のコレクションの逸話が、偽証で有罪になった虚言者への1888年12月の取材記事1本に遡ることが明かされる。

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