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未知の輪郭

アメリカ / 英語

911通報、墜落する取材ヘリ、ユタの怪放送 音声だけが残った3つの記録。

文=B.nakamura

音声だけの記録には、映像とは違う怖さがある。誰かの人生のいちばん近い場所に耳を寄せているのに、その場面は決して見えない。今回この動画が選んだのは、見ることのできない3つの記録だ。

「死ぬ前に助けを呼んでください」

2019年8月24日、嵐の夜。新聞配達に出ていたデブラ・スティーヴンスの車がハイドロプレーニングを起こす。立て直す間もなく水位が上がり、車は道路から押し流されて木に押し付けられた。彼女はまず義母に電話し、警察に連絡するよう告げられて911をかける。

通報の音声はそのまま流れる。キンケイド通りの端、水は窓まで来ていて外に出られない。「死ぬ前に助けを呼んでください」。返ってきたのは「死にはしません。なぜ取り乱しているのか分かりません」だった。取り乱しても酸素を失うだけだ、落ち着いて——そう繰り返す指令員の声が、通話が進むにつれて苛立ちを帯びていくのが分かる、と語り手は言う。

水が胸まで来たと訴える相手に、指令員はこう返す。「次からは水の中を運転しないこと。これでいい勉強になりますね」。見えなかったんです、と謝るデブラには「どうして見えなかったのか分からない」。車から出られない女性の通報が、盗難車と同じ程度の優先度としてしか扱われていなかった、というのが動画の指摘だ。優先度が上がったのは通話の中ほどで、その時点で重要な数分がすでに失われていた。

終盤、デブラは車が動き出したと繰り返し叫び、「息ができない」「引きずり込まれる」と訴えたところで通話が切れる。救助隊がたどり着いたのは約10分後。彼女は車内で溺れて亡くなっていた。

数か月後の報道で、指令員ドナ・レノーが2週間前に退職届を出しており、この日が偶然にも最後の勤務だったことが分かる。内部調査の結論は、規則違反も刑事上の行為も無し。処分は下りなかった。動画はここで強い言葉を使う——パニックを鎮めるためのまともな助言を、彼女は最後まで一度もしなかった、と。

生放送の途中で、声が途切れる

1986年、WNBCニューヨーク。ジェーン・ドーナカーは毎日の交通情報を担当していた。元は音楽家であり女優で、30代後半にこの仕事へ落ち着いた人だ。

10月22日の午後4時44分、スペクトラム社が運航するエンストロムF-28Fが離陸する。乗っていたのは39歳のドーナカーと、30歳の機長ビル・ペイト。ふたりが知らなかったのは、整備士が誤ったクラッチを取り付けていたことだった。ローターへの動力を完全に失わせうる見落としだという。

放送では、彼女がいつも通り渋滞と事故の場所を読み上げている。メジャー・ディーガンの事故、BQEの故障車、ホランド・トンネルの混雑。ニュージャージーへ話が移ったところで、声が変わる。「水に降ろして。水に降ろして。水に降ろして」。機体は急に機首を下げ、桟橋の金網に接触してハドソン川へ落ちた。

スタジオの司会ジョーイ・レイノルズは、何が起きたか分からないまま放送を続けた。数か月前にも同じことがあった、あのときは無事だった、無事を祈りましょう——そう言って音楽に切り替えている。その日の夕方のニュースで、ドーナカーの死亡とパイロットの危篤が伝えられた。

機体は約6メートルの水中に15分間沈んだままだった。スプラグクラッチが故障してローターが固着し、降りるほか無かったという。搭乗していた二人に落ち度は無い。ペイトは重傷を負い、ドーナカーは助からなかった。彼女にとってこれは2度目の墜落で、1度目は同じ年の4月、ニュージャージー州リッジフィールドパーク付近のハッケンサック川だった。

残された16歳の娘は、その3か月前に父を亡くしたばかりだった。不当死の訴訟でスペクトラム・ヘリコプターズから32万5000ドル、現在の価値でおよそ100万ドルにあたる和解金を受け取っている。整備のミスひとつで、ひとつの家族の人生がまるごとひっくり返ったわけだ。

ユタのAM帯で拾われた、誰のものか分からない声

3つ目は毛色が違う。2016年6月、YouTubeのユーザー「Sir Daniel Fortesque」が1分半の音声を投稿した。説明欄によれば、投稿者はユタ州の銀行管理ビルで夜勤の警備員をしていて、警備室には上司が日勤中にトーク番組を聞くための古いAM/FMラジオが置かれていた。

6月16日、退勤前の時間つぶしにAM帯のつまみを回していて、ひどく不気味な放送に行き当たる。1分半ほど聞いてから携帯で録音を始めた。聞こえるのは2つの声。恐怖か苦痛のうちに泣く女性と、その合間に入る、より若く聞こえる別の声だという。

録音は雑音に埋もれていて、断片しか拾えない。「二人とも子どもだった」。「私の赤ちゃん」。「あなたにも誰にも何もしていない」。泣き声と、外国語らしき声が重なる。留守番電話の吹き込みのようにも聞こえるが、彼女が話しかけている相手の応答は、最後まで一度も聞こえない。

語句を検索しても何も出てこない。映画やテレビの音声という線も行き止まりだ。5年前に扱ったポートランドの96.7FMの怪放送では、非営利団体Community Alliance of Tenantsまで絞り込めた(団体は関与を否定している)。あのときはコールサインという手がかりがあった。今回あるのは、静電気に埋もれた声と、絞り込むには広すぎる場所だけだ。

短波なら機材さえあれば誰でも何でも流せるから、いたずらの可能性はある——と動画は自分から言う。そのうえで、そうでなかったら、と続ける。2016年ごろのユタで似たことを覚えている人、関連する録音を持っている人はいないか。呼びかけを残したまま、この回は閉じる。

音声は親密で、身近で、そのぶん不穏だ。失われた情報の隙間を、聞き手はいつも最悪の想像で埋めてしまう。3つの記録に共通しているのは、そこだ。

視聴者の反応

  • nexpo keep talking im almost finished

    高評価 16,623

  • Man sometimes 911 operators piss me off. You could be on fire and they would still be like "am I not on the phone trying to get you help?"

    高評価 12,279

  • the dispatcher’s response is abhorrent, no one should be passing judgment on someone in a life or death situation instead of sending help asap

    高評価 8,454

  • Telling a terrified person who's drowning to "shut up" is incredibly cruel, poor Debbie, she deserved much better

    高評価 5,763

  • Every time I hear that first clip I have to skip it. It makes me so angry that the dispatcher faced zero consequences for being so abhorrent as that poor woman died

    高評価 4,402

編集部から

デブラ・スティーヴンスとジェーン・ドーナカーの件は記録も調査結果も残っているが、3つ目のラジオ放送だけは出所も文脈も確かめられていない。心当たりのある人を探している、という状態のまま動画は閉じる。

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動画の見どころ

  1. 2019年8月24日の嵐の夜、新聞配達中の車がハイドロプレーニングを起こして水に押し流され、木に押し付けられる。義母に電話し、警察へかけるよう言われて911を回すまで。

  2. 「死ぬ前に助けを呼んでください」という訴えに、通信指令員が「死にはしません。なぜ取り乱しているのか分かりません」と返す。ここから声に苛立ちが混じり始めると語られる。

  3. 「次からは水の中を運転しないこと」と指令員が言い、見えなかったと謝る相手に納得しない。通報が盗難車と同程度の優先度でしか扱われていなかったと動画は指摘する。

  4. 指令員が2週間前に退職届を出し、この日が最後の勤務だったと判明する。内部調査は規則違反も刑事上の行為も無しと結論し、処分は下りなかったという。

  5. 1986年10月22日、生放送で渋滞情報を読み上げていたジェーン・ドーナカーの声が「水に降ろして」に変わり、機体が桟橋の金網に接触してハドソン川へ落ちる。

  6. 何が起きたか分からないまま放送を続ける司会が、数か月前にも同じことがあったと触れ、無事を祈ろうと言って音楽に切り替える生放送の数分。

  7. スプラグクラッチの故障でローターが固着し、機体は約6メートルの水中に15分間沈んだ。残された16歳の娘は不当死訴訟で32万5000ドルの和解金を受け取ったという。

  8. ユタのAM帯で拾われたという録音。「二人とも子どもだった」「私の赤ちゃん」という断片と泣き声が雑音に埋もれ、相手の応答は最後まで一度も聞こえない。

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