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未知の輪郭

事件・犯罪 / アメリカ

氷点下のカプスカシングに現れた、コートを着ていない男 1988年の刺殺事件が解けるまで。

文=久世 理央

1988年1月、カナダの小さな町のスポーツ用品店。店員が顔を上げると、男が入ってきたところだった。外は氷点下なのに、その男はコートを着ていない。スニーカーに破れたズボン、薄いビニールのレインポンチョという格好だった。

男は棚からスキーパンツを1着つかみ、現金で払い、足早に出ていった。店員がラジオをつけたのは、そのすぐあとだ。すぐ近くで殺人があった、という速報が流れていた。

前の晩、1988年1月11日。オンタリオ州北部の林業の町カプスカシングで、62歳の整備士が台所でスープを飲んでいた。向かいに座る53歳の同居女性は、家の中の寒さに震えている。彼は暖房を上げなかった。電気代が高すぎる、というのが理由だった。子どもの頃に家がひどく貧しく、倹約の習慣が残っていた。安定した収入と、それなりの貯えはあった。

彼は立ち上がったが、暖房のためではない。居間からショールを取ってきて女性に渡し、スープに戻った。

翌朝7時15分ごろ、彼は空のベッドで目を覚ました。女性は台所で朝食と弁当を作っている。数分後、布団が動いて彼女が隣に戻ってきた。しばらくして彼は下着姿で廊下へ出た。日はまだ昇っていない。暗い家を記憶を頼りに進み、浴室の明かりをつけ、扉を閉め、蛇口をひねって髭を剃り始めた。

背後で扉がきしんだ。同居女性だと思って振り返る。立っていたのは、別の人物だった。

隅々まで片付いた家で、浴室だけが血だらけだった

隣家の女性は台所にいて、大きな物音と叫び声を聞いた。窓に走ったが、暗くて何も見えない。同居女性が男性の名前を何度も叫んでいるように聞こえた、という。

コートをつかんで外へ出ると、隣家の扉が開いて男が出てきた。家の男性ではない。背が低く、がっしりして、30代前半に見えた。男は段を下りたところで振り返り、彼女と目を合わせた。

彼女は慌てなかった。自分の車まで歩き、乗り込み、鍵をかけて座って待った。その間ずっと、男は隣家の前に立ったまま彼女を見ていた。やがて歩道へ移り、青いピックアップトラックに乗り、ヘッドライトも点けずに走り去った。

隣家へ電話をかけたが、呼び出し音が鳴るだけだった。警察に通報している最中、玄関が激しく叩かれた。あの男が戻ってきたかと思ったが、外にいたのはコートも着ていない同居女性だった。落ち着いてから、彼女は、あの人に恐ろしいことが起きた、と言った。

約20分後、オンタリオ州警察の巡査が拳銃を抜いて玄関を押し開けた。呼びかけても応答はない。部屋を一つずつ確かめていくと、家は静かで、隅々まで片付いていて、何も乱れていなかった。浴室に着くまでは。

壁も床も、歯ブラシもトイレットペーパーも血だらけだった。血の大半は、床に倒れた男性の周りにたまっている。下着姿で仰向け。顔の半分に髭剃りの泡が残ったまま、首と胸と腕に少なくとも十数か所の刺し傷があった。脈は無い。体はまだ温かかった。

巡査は無線で報告し、あわせて指示も求めた。この町では殺人がほとんど起きず、次に何をすべきか分からなかったからだ。

容疑者と、30代前半という年齢が重なる人物たち

正午ごろ、殺人捜査の経験者がいない町のために、トロントから刑事が飛んできた。侵入も物色の跡も無く、浴室以外は片付いたままだったことから、強盗や無差別の襲撃ではないと刑事は見た。

その日のうちに、痕跡が次々に出た。家から数マイルの路肩に、雪をかぶった血まみれの冬用ブーツ。製紙工場の裏には、乗り捨てられた青いピックアップ。町の中心部では、コートを着ていない男が複数の店でブーツとジャケットとスキーパンツを現金で買っていた。正午の検問で止められたタクシーには、落ち着かない様子の30代の男が乗っていて、警官は身分証を確認して名前を記録し、通していた。

その名前と、ピックアップの所有者の名前が一致した。

男は33歳、コカインの売人で、地元のバーやホテルにダンサーを手配する副業もあり、薬物取引の逮捕歴もあった。人相も合う。ただ一点だけ、どうしても埋まらないものがあった。被害者とのつながりが、どこにも見つからない。2人は車で数時間離れた土地に住み、共通の友人も仕事上のつながりも無かった。残る可能性は2つだ。被害者が隠していた何かで結び付いていたか、誰かが殺害を依頼したか。

依頼者の候補はいた。被害者はかつて20年間、同居女性の姉と結婚していた。2人の不倫が発覚したことで家族は引き裂かれ、姉は即座に離婚し、12年経っても強い怒りが残っていたという。成人した息子も父とほとんど口をきかなくなっていたが、殺害の3週間前のクリスマスだけ訪ねてきて、最後には打ち解けたという。息子は30代前半で、隣人が見た男の年齢層とちょうど重なる。

電話で話した息子の声は震えていた。良い訪問だったのに、何を話したかはほとんど思い出せない、と彼は言った。刑事は信じなかった。ただ、それ以上のものも出てこなかった。

巡査が読み上げた台本と、引き出された一言

流れを変えたのは、被害者の銀行の取引明細だった。貯えは多い。だが口座はここ数か月で着実に減っていて、一定の間隔をおいた大きな引き出しが並んでいた。行き先は分からない。

逮捕された男は、留置場で床をにらんだまま一言も話さなかった。

数日後、刑事は台本を書いて巡査に渡した。自分の声では気づかれる。巡査は疑っている相手へ電話をかけ、心配している友人だが名前は言えない、あなたが何をしたか知っている、警察に何を話したかだけ聞きたい、と切り出した。

一瞬の沈黙のあと、相手はこう答えた。「警察には何も話していない。ほかの誰にも話させないだけの金はある」

首謀者は、被害者の同居女性だった。極端な倹約に嫌気がさし、その金をすべて自分のものにしたかったのだという。殺害までの数か月、被害者の口座から自分の口座へ金を動かしていたのも彼女だった。実行役の男を紹介したのは彼女の姪で、姪はその男がダンサーを手配していたバーの一つを経営していた。報酬は、被害者自身の貯金から支払われた。

2人は第一級殺人で起訴された。実行役の男は裁判の前に自ら命を絶った。彼女は有罪となり、20年服役して2009年に仮釈放された。

視聴者の反応

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  • Moral of the story, turn up the heat when your lady is cold

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  • Okay so she steals her sister's significant other (husband?) then decides she doesn't like how cheap he is, so she kills him? Girl, make up your mind!

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編集部から

刑事が最初に引っかかったのは、供述の中身ではなく、話す間に一度も泣かなかったことだった。事件が解けたあとで見返すと、家が隅々まで片付いていたことも、同じ側の手がかりだったことになる。

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MrBallen

動画の見どころ

  1. 氷点下なのにコートを着ていない男がスポーツ用品店でスキーパンツを現金で買って出ていき、直後に店員がつけたラジオが近くの殺人事件の速報を流していた。

  2. 暗い家で浴室の明かりをつけ髭を剃り始めた男性の背後で扉がきしみ、同居女性だと思って振り返るとまったく別の人物が立っていた。

  3. 隣家から出てきた男と目が合った女性は慌てず自分の車に乗って鍵をかけ、男は家の前に立ったまま彼女を見つめたあと、無灯火の青いピックアップで走り去った。

  4. 家は隅々まで片付いて何も乱れていなかったのに、浴室だけが壁も床も血だらけで、髭剃りの泡を顔の半分に残した男性が十数か所の刺し傷を負って倒れていた。

  5. 路肩の血まみれの冬用ブーツと製紙工場の裏の青いピックアップが見つかり、その所有者名が検問で記録された落ち着かない乗客の名前と一致する。

  6. 容疑者は人相も前歴も合うのに被害者とのつながりがどこにも見つからず、隠れた接点があるか誰かが依頼したかの2択に絞られる。

  7. 被害者の銀行の取引明細に、一定の間隔をおいた大きな引き出しが並んでいて口座が数か月で着実に減っていたことが分かる。

  8. 巡査が匿名の友人を装って電話をかけると、相手は「警察には何も話していない。ほかの誰にも話させないだけの金はある」と答えてしまう。

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