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未知の輪郭

日本 / 日本語

石油はなぜ中東に偏るのか テチス海と背斜構造、そして「あと50年」が減らない理由。

文=佐々木 玲

「石油ってなんで日本にないんですか」。リスナーから届いたこの質問が、今回の出発点です。中東に偏りすぎではないか、という素朴な疑問に、地質、技術、そして現在進行中の情勢まで含めて答えていきます。

まず前提として、私たちの身の回りはほとんど石油でできています。スマホもパソコンも、菓子の袋もTシャツも、化粧品もシャンプーもタイヤも。石油は炭化水素を主成分とする液体状の化石燃料で、同じ成り立ちのものが気体なら天然ガス、固体なら石炭になります。

石油はどうやってできたのか

実は、なぜ自然にこんなものができたのか、正確な理由は分かっていません。有力な説は2つあります。

一つが生物起源説。海や湖の底に生物の遺骸や泥が堆積し、地下は深くなるほど温度が高くなるので、長い年月のあいだに熱で分解されて石油になった、という筋道です。ほぼこちらだろうと言われています。

もう一つが非生物起源説。地球ができるときに石油の元になる物質が小惑星として飛来し、地中深くに蓄えられ、今も内部で作られ続けているという、かなり振り切った説です。動画自身もオカルト寄りの説と断りますが、後ろ盾は強力で、元素の周期表を作ったメンデレーエフが主張していたといいます。

偏りの理由は、2億年前の浅い海にあった

油田は世界に数万か所あるとみられますが、どこでも豊富に採れるわけではなく、埋蔵量は一部の巨大油田に集中しています。その約半分がサウジアラビア、イラン、イラクといった中東。地球の陸地の3%ほどしかない地域に、世界の石油のおよそ50%が眠っているという話もあります。

なぜそうなったのか。油田ができるには3つの条件が要ります。プランクトンが豊富であること、その死骸が堆積しやすい湖や浅い海があること、できた石油を溜め込める地形であること。すべて自然任せなので、揃うこと自体が奇跡です。

中東で最大の要因になったのが、テチス海でした。約2億5000万年前から6500万年前、恐竜がいた時代に、ローラシア大陸とアフリカ・インド大陸の間に広がっていた浅い海です。赤道に近く暖かいので生き物が多く、植物プランクトンも豊富。しかも程よく閉ざされて海流の循環が緩やかだったため、死骸が腐敗せずに大量に積もっていきました。その後の地殻変動でテチス海は消えますが、プランクトンを溜め込んだ地層が押し上げられ、大量の石油ができたとされています。それがちょうど今のアラブやサウジアラビアの位置にあたる、というわけです。

もう一つが地形です。中東の地下にはドーム状に盛り上がった背斜構造がいくつも連なっています。石油は水より軽いので、放っておけば浮力で上へ上へと移動して散らばってしまう。ところがドーム状の岩盤が蓋の役割を果たすと、上がってきた石油はその頂点に溜まります。掘ればストローを刺したように噴き出す——天然の貯蔵庫が、地下にいくつも用意されていたことになります。

「あと50年」が減らない理由

2020年の試算では、石油の採掘可能年数は53.5年。2026年現在では50年を切っています。ただ、この「あと数十年」という話は昔から聞いてきたはずです。1980年にイギリスのBP社が発表した数字は、なんと29.7年でした。その通りなら、とっくに無くなっている計算になります。

からくりは数字の読み方にありました。この残り年数は、地球上の石油を使い果たすまでの年数ではなく、採掘可能とされる埋蔵量を年間生産量で割った数値です。技術が進めば、これまで掘れなかった場所も、コストが合わずに手を出せなかった油田も、採算の取れる「埋蔵量」に加わります。だから分子のほうが年々増えてきたのです。

その象徴が、2020年に埋蔵量1位がサウジアラビアから南米のベネズエラへ替わったことでした。この20年で4倍近く増えたのは、大油田が新たに見つかったからではなく、採れなかった石油が技術開発で採れるようになったから。今では世界全体の約17%を占め、逆に中東やカナダといった従来の産油国はシェアを落としています。

とはいえ、石油はゼロから作れません。地球上に存在する量には限りがある以上、いつか必ず枯渇する日が来ます。減るほど価格は上がり、ガソリンだけでなく石油を材料とするあらゆる商品が値上がりし、物流コストも電気代も生活を圧迫します。だからこそ、発電や暖房には水力、地熱、風力、太陽光を回して石油を節約する——化石燃料に依存した社会構造からの脱却が必要だ、という結論になります。

石油が動かす戦争と、ホルムズ海峡

これだけ貴重なものが一部の国に偏っていると、何が起きるか。戦争です。1973年以降に起きた国家間の戦争のうち、4分の1から半分近くは石油の取り合いだと見る学者もいる、と動画は紹介します。国のリーダーにとって石油が切れることは、食料も医療も物流も止まる国家機能の停止を意味する命綱だからです。

2026年現在、アメリカとイランは事実上の戦争状態にあります。争点の一つがホルムズ海峡。空爆への報復として、イランは世界の石油の約2割が通るこの海峡を通過する船を攻撃すると警告しました。アメリカは海軍第5艦隊を周辺に配備して監視と航路の確保にあたっています。世界の石油輸送の生命線を握り続けるためだ、というのが動画の見立てです。サウジアラビアやUAE、バーレーンといった周辺国は米国の力に依存しており、米軍が撤退すれば地域のパワーバランスが崩れて軍拡競争につながる恐れがある、とも指摘されています。

影響はアジアに直撃しました。ホルムズ海峡を通過する原油と石油製品の約8割は、アジア市場向けだからです。原油の海外依存度が95%のフィリピンではガソリン価格が2倍以上に高騰し、世界で初めて国家エネルギー緊急事態が宣言されました。世界最大の石油輸入国である中国も、石油製品の輸出を一時的に全面禁止しています。

日本は、どうなのか

日本の原油の中東依存度は9割を超えています。主要国の中でも異常に高く、世界で最も石油の供給リスクにさらされている国の一つです。菓子のパッケージがモノクロになったのも無関係ではなく、カラーインクの顔料も樹脂も溶剤もナフサに依存しているため、モノクロにするだけで石油の使用量を75%削減できるのだといいます。

切り札は備蓄です。国が持つ国家備蓄、企業に義務づけられた民間備蓄、そして産油国と共同で持つ備蓄を合わせて、日本は約240日分——8か月分を蓄えています。世界の備蓄の平均が145日ですから、大きく上回る水準です。実際、情勢が緊迫した3月から4月には、国家備蓄の放出というカードが2回切られました。約850万キロリットルと約580万キロリットル、金額にして合わせて1兆800億円分です。

6月15日にはトランプ大統領がSNSで停戦の合意成立を表明し、18日にいったん封鎖が解除されました。ただ10日ほどで状況は再び悪化し、6月末から7月頭にかけて各国の大型タンカーやコンテナ船が相次いで攻撃され、停戦は事実上崩壊しています。便利な文明社会を築いた石油が、利権をめぐって逆に文明を後退させかねない——動画はそう締めくくります。

視聴者の反応

  • リスニー「何で日本に石油は無いの?」 新潟県「なんだと!!」

    高評価 572

  • 日本も新しいエネルギーを見つけたら潤うって考えてたけど争奪戦争になるかと思うと見方が変わるね

    高評価 105

  • 汎用性が良すぎるのが悪い

    高評価 72

  • あのドロドロの原油を加工していろいろ作ろ〜って、考えた人がスゴイ!

    高評価 67

  • いつもバックグラウンドで聞いてたから気づかんかったけどすごいな編集

    高評価 66

背景

この回に出てくる言葉を整理しておきます。原油は油田から汲み上げたままの状態で、不純物を多く含みます。これを製油所の塔で加熱し、成分ごとの沸点の差で分けるのが分留です。塔の上からLPガス、ガソリン、ナフサ、灯油、ジェット燃料、軽油と分かれ、いちばん下に重油とアスファルトが残ります。ナフサはそのうちの一つで、800度以上で分解するとエチレンやプロピレンになり、プラスチックや合成ゴムの原料になります。背斜構造は、地層がドーム状に盛り上がった地形のこと。水より軽い石油が浮き上がってその頂点に溜まるため、天然の貯蔵庫として働きます。なお、動画で挙げられる数字や順位の出どころまでは示されないので、そこは確かめながら聞くのがよさそうです。

動画を見る

たっくーTVれいでぃお

動画の見どころ

  1. 石油ができた理由は正確には分かっておらず、生物起源説のほかに、小惑星として飛来した物質が今も地中で石油を作り続けているという非生物起源説をメンデレーエフが主張していたと紹介される。

  2. 中東は地球の陸地の3%ほどしかないのに世界の石油のおよそ50%が眠っているとされ、油田ができる3つの条件が挙げられる。

  3. 約2億5000万年前から6500万年前のテチス海が赤道近くの暖かく閉ざされた浅い海で、腐敗しないままプランクトンの死骸が大量に堆積したことが最大の要因だと説明される。

  4. 中東の地下に連なる背斜構造ではドーム状の岩盤が蓋になり、水より軽い石油が頂点に溜まるため、天然の貯蔵庫として働いていると説明される。

  5. 1980年にBP社が発表した石油の寿命は29.7年だったが、この残り年数は使い果たすまでの年数ではなく採掘可能な埋蔵量を年間生産量で割った数値だと種明かしされる。

  6. 1973年以降に起きた国家間の戦争のうち4分の1から半分近くは石油の取り合いだと見る学者もいる、という指摘が紹介される。

  7. イランが世界の石油の約2割が通るホルムズ海峡の通過船を攻撃すると警告し、アメリカが海軍第5艦隊を配備して航路確保にあたっている構図が説明される。

  8. 日本は国家備蓄・民間備蓄・産油国共同備蓄で約240日分を蓄え、3月から4月には計1兆800億円分の国家備蓄放出というカードを2回切ったと説明される。

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